2007年11月26日月曜日

ある日の電車のおじいさん

もう少し前の話。その日は少し暖かい、少なくとも電車内は暖かい日差しがさしていた。その電車で隣に座ってきたおじいさんはグレーのジャケットに藍色の縦のストライプが入ったシャツに黄色が少し光って見えるネクタイをして、茶色っぽい赤のハンティングを被っていた。おもむろに開く文庫本は村上春樹の海辺のカフカだった。横に座って、おじいさんが読んでいるところを盗み見していた。まだそれは読み始めたばかりでナカタさんが猫と話をしている最中だったような気がする。おじいさんは電車の中で10ページも読めなかったと思う。ゆっくりページを繰っていた。僕達は同じ駅で電車を降りた。その駅は御茶ノ水だった。御茶ノ水に着く手前、水道橋を過ぎたあたりでおじいさんは老眼鏡を外そうとして、手元がくるったのか、膝の上にめがねを落とした。僕はあっと思ったけど、手も声も出ずに自分の読んでいた本にも集中できずにおじいさんを見ていた。どうか、おじいさんが海辺をカフカを読み終わるまで健やかでありますように。たとえ、それが何回目かの海辺のカフカであったとしても。

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