2007年11月29日木曜日

思い出し日記

これもまたある朝のこと。
それは、中央線の快速電車が、中野を出発して、新宿へ向かう途中だった。西からずっと直線で来ていた線路がちょうど弧を描き始める頃だったから大久保に向かう東中野あたりだったのだろう。僕は中野で椅子に座ることが出来、森山大道の「犬の記憶 終章」を読みながら写真のこと、森山のこと、僕の数少ないカメラマンの知り合いの山口さんのことなどを思いながら、南を向いて最後尾の車両の7人掛けに座っていた。
次の瞬間、がたんというレールの継ぎ目の音に気をとられたような気がして、本から顔を上げると、左頬に冬がはじまったばかりの日差しがあたっているのを感じた。その光を僕は眼の奥に入れると、少しやわらかくて直射の日光が決して眼球の奥を指しているわけではないことを知った。ほんの一瞬だった。やや埃の舞った車内で、光がぼんやりと春にはない明かるさでもって、窓ガラスに反射し、向こう側に新宿の影が見えた。静かな一瞬だった。レールとレールの継ぎ目をまたぐ音がその時だけはしていなかったように感じる。
あっと思い、まだその流れている時間を僕はその時間が立ち去るまでの時間を強く意識して感じていた。彗星が流れるよりは長い時間だ、まだ大丈夫だと思い、カメラが手元にないことを、地球を光が一周するぐらいのスピードだけ呪い、残りの時間はこの時間を忘れないようにと、その光が立ち去るまでは感じてそこに首を傾けて、シートに座っていた。その時間は確かに短かった。気が付いたら、日光は直射で僕の眼を刺し、影だった新宿は大きくなって、歌舞伎町、靖国通り、東口、アルタをプロジェクションしていく。
僕にはまだ撮れない写真が多く存在する。

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