2008年5月31日土曜日

彼方から音盤が(その1)~極々私的ディスク選~

パソコンのデータを整理していると、数多くの書き散らかしたメモや文章、スケッチ、写真や画像などが出てくる。今回もそうした中で1年以上も前に友人の三谷に頼まれて書こうとしていた原稿が出て来た。結局、そちらは引き受けたもののぐずぐずしていて未完成のまま、原稿を落としてしまった。(実際にはWebで載せたいということだったので、落とすも締め切りもないのだけど)
せっかく、見つけたので、こちらに掲載してみようと思う。
お題は、あなたの好きなCD10枚を挙げて、自由に思いの丈を書いてください。というものだったと思う。ひねくれた僕はディスクレビューをするということを軽く放棄して、書きたいことを書こうと思ったのだが、当時あまりにも頭でっかちになってしまい。書ききれなかったのだと思う。この文章はそれの断片。


彼方から音盤が~極々私的ディスク選~


【はじめに】

音楽(とりわけある音盤)との出会いには大きく二つに分類することができるだろう。ひとつは自発的、偶発的の差あれど、自らその音盤に出会うケース、もう一つは誰か他人に推薦され、その音盤に出会うケース。これまでに筆者も様々な音盤と出会っているわけだが、その中で個人的な思い入れのある10枚を選ぶというこの依頼に対して、前者のものはあまりにも数が多く、選ぶための全体を把握すらできないだろう。
そこで、今回は後者の方、他人に推薦された音盤から選び、それを紹介することにした。
もっと言うと自分にとって心に残る印象的な人を10人選び、彼らが自分にいったい何を薦めたかということを飛び越えて、その人が僕に与えた音楽的な何かを直接・間接的を問わず書いてみたい。それは言ってみれば、僕の音楽的人格形成に影響した人々についての話に最終的になっているのと思うし、それがたとえディスクレビューという形になっていなくともまずは書いてみることにする。だからと言ってはなんだが、極力そのCDに関することは敢えて書かないようにもしてみる。また、これらは総て僕の後日談であって、多分に妄想的回顧録であることは前もって断っておきたい。そして、そうした性質を持ったテキストであるため、各テキストの文中には必ず最低1回は記憶があいまいなこと、失念していることを書き記し、僕がもう当時とはずいぶん遠くに来てしまったということを記しておく。


【1】Keith Jarrett / The Melody at Night, With You

これは関東平野の闇を切り裂く夜中の2時頃に県道をひた走る車の中で初めて聞いた。厳密に言うと、これは直接的に薦められて聞いたものではない。彼らが聞いていた時に自分もそこに居合わせていただけだ。このCDをおもむろに車内でかけた男はつい先ほどまで、あるジャズクラブ(そのクラブの名前は忘れた)で演奏をしていた、KAZUこと横島和裕氏だ。彼の運転するワゴン車の助手席には、ドラムス大井澄東氏が座っており、今日のギグのことを話している。僕はその後ろのシートで暗い中、二人の話を聞いている。当時、本当に小僧だった僕はボーヤをしていた。エンジン音の間から乾いたピアノの音が鳴り、車は北上している。前の席の二人が黙る。煙草に火がつけられて、窓が開く。「こういう音楽が俺たちには必要だ」と横島さんが呟く。窓が閉じて、車は川を越えて、帰宅の途に就く。この時僕はまだ、キースジャレットがこのアルバムを病気からのカムバックのために自宅で録音したものだとは全く知らない。車はこの日のギグへの思いをつめて、一日を終らせるために走っていた。

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